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【桜の森の満開の下】
山に足を踏み入れた男は殺して気に入った女は女房にしていた非道な山賊だったが、魔物が住んでいると言われる桜の森には近づかないようにしていた。桜の満開の頃、恐ろしく美しい女と出会いそして娶り、女が望む事は全て叶え、他の女房達も殺してしまった。ある時、女が都を懐かしんで帰りたいとせがんだので、山賊は都で暮すようにした。そこでも、山賊は女のために人を殺し、金品を盗み、女の機嫌をとっていた。一方、女は殺された人間の首を使って“首遊び”を楽しみ始めた。しばらく、生首を狩っていた山賊だったが、やがて都会の生活に飽きて、山へ帰ると言い、山賊は女を背負って山を走った。桜の森の中を走っていると、背後から不気味な声が聞こえてきた。ふり返ると、女が老婆の鬼の姿に変身していた。山賊は背中から鬼をふり落して首を絞め殺した後、我に返って足元を見ると、桜の花びらに埋まって美しい女が息絶えていた。満開の桜の中、山賊の慟哭だけが響き渡る。

【地獄変】
良秀という高名な絵師がいた。その容貌は醜く、言動も心悪いものであったため、周囲の人間からは嫌われていた。しかし、そんな良秀には美しい娘が一人いた。その娘は、大殿様の女房であり、優しく清楚な女子であったので、寵愛されていた。ある時、大殿様が良秀に、地獄変の屏風を描くように依頼した。それから、良秀は悪夢にうなされたり、以前にも増して奇妙な行動ばかりしていたが、それもこれも絵を完成させるためだった。ところが、完成間近にぴたりと筆が止まってしまった。実際に人間が焼かれる姿を見ないと描けなくなったのだ。そして、それに選ばれたのがなんと良秀の娘であった。良秀は自分の娘が燃えている様を一心不乱に描いた。良秀は見事な地獄変の屏風を描き終えるが、数日後、自分の部屋に縄をかけ首をつって死んだのであった。

【阿部一族】
肥後藩主・細川忠利の病死に際し、恩を受けた18人の藩士が殉死の許しを得たが、当然殉死するはずの阿部弥一右衛門だけは殉死の許しを得ることができず、忠利の遺言に従い、生き残って新しい藩主・光尚に奉公することになる。しかし藩内の武士から冷ややかな目で見られ、命を惜しんでいるという批判も耳にする。命を惜しんでいないことを証明するため、子供達の面前で弥一右衛門は追腹を切ったが、そのために光尚の家督相続後、弥一右衛門の嫡子・権兵衛は禄高を減らされてしまった。その扱いに不服を持った権兵衛は、忠利の一周忌に墓前にて髻を切り武士を棄てる。光尚は権兵衛のこの行動に憤り、彼を縛り首にしてしまった。「何事があろうとも、兄弟わかれわかれになるな」という弥一右衛門の遺言のもと、兄弟達は屋敷に立て篭もり壮絶な戦いを繰り広げるが、討手によって非業の死を遂げた。

【蒲 団】
妻と三人の子供がいる30代半ば作家、竹中時雄のもとに横山芳子という若い女学生が弟子入りを志願してきた。家庭生活に不満を持っていた時雄は自分を慕う芳子に恋心を抱く。芳子に想いを告げられずにいる時雄だが、芳子は帰郷した際に恋人を作ってしまった。その男との関係は神聖で、罪を犯してはいないという芳子を、時雄は監督者として自らの家に住まわせる。二人の関係を引き裂こうとする時雄だが、芳子と恋人の関係がついに一線を越えたと知ってしまう。強硬手段として時雄は芳子を父親の元に引渡し、恋人と引き離し故郷に帰らせることにした。芳子が去った後、時雄は彼女が寝ていた蒲団に顔をうずめ、絶望のうちに芳子の残り香を嗅ぐのだった。

【走れメロス】
羊飼いのメロスは、人を信じられなくなり罪のない人々を処刑している暴君に激怒し、王の暗殺を決意するが、捕らえられて処刑を命じられてしまう。しかし、親友のセリヌンティウスを人質として置く事を条件に、妹の結婚式に出るため三日間の猶予を得ることができた。村へ戻り、盛大な結婚式を挙げてからの帰途、幾多の困難がメロスの行く手を阻む。さらに遅れてくれば助けてやるという王の言葉が脳裏をよぎり、一度はあきらめかけたメロスだが、親友を救うために、そして自分の命を捧げるために、最後の力を振り絞り走り出す。こうしてメロスは時間間際に到着し、約束を果たした。メロスの行動に心を動かされた王は改心し、勇者を褒め称えるのだった。

【山月記】
唐の時代、李徴(りちょう)は自他共に認める秀才であったが、自尊心が強く人を見下す傲慢な性格であった。彼は役人になったが、愚劣な上官の下にいるという身分であるのに嫌気がさし、辞めてしまった。その後、詩人として後世に名を残そうとするものの、上手くいかず、ついには発狂して山へと姿を消した。それから一年後。李徴の旧友である袁イ參(えんさん)が旅の途中の村で、人食い虎が出没しているという話を聞いた。彼は意に介さず出発しとうよした時、突如その虎が襲いかかってきた。しかしその瞬間、なぜか虎は慌てて茂みの中に姿をくらました。茂みの中からは「あぶなかった」という声が聞こえた。李徴の声だった。彼が言うには、ある夜何者かに呼ばれて外に走り出したら、いつの間にか虎になったという、今では日に数時間だけしか人間としての意識が持てず、彼は虎になって初めて己を省みた。袁イ參に対して、その後悔の念を語り、今の心情を吐露した。また人間だった頃に作った詩と、さらに即興の詩も詠んだ。最後に彼は、袁イ參に、虎になってしまった自分の姿を曝し、再び茂みへと消えていった。

【檸檬】
肺病を患っている「私」はちょっとした贅沢を好んで、文具店の丸善へよく足を伸ばしていたが、最近では興味を失い、避けるようになっていた。そんな時、以前から気に入っていた不思議な雰囲気を持つ果物屋の前で「私」はふと足を止め、檸檬を一つ買った。檸檬のひんやりとした冷たさはちょうど良く、掌を柔らかくさせ、「私」の心を和ませた。そしてそのまま、避けていた丸善に立ち寄るが、やはり「私」の気持ちはまた重くなってしまった。普段から特に気に入っていた画集を見ても気分が晴れない「私」は、棚から何冊も画集を積み上げ、その一番上に檸檬を置いて丸善を立ち去った。その爆弾に見立てた檸檬によって私を不安にさせる物が爆破される様を思い浮かべて、一人興奮しながら。

【たけくらべ】
遊女の姉を持ち勝気で美貌の少女・大黒屋の美登利と、僧侶の息子で周りから一目置かれている少年・龍華寺の信如。大音寺前という郭町に住む二人は同じ学校に通うが、周囲にその仲を囃し立てられて以来距離を置いている。一方この町では質屋の息子・田中屋の正太郎率いる表町組と、鳶の頭領の息子・長吉率いる横町組が対立していた。祭りの日、信如は長吉の頼みを断れずに横町組に加勢するが、そのために表町組の美登利との仲違いが決定的になる。ある雨の日に、信如は大黒屋の前で下駄の鼻緒を切ってしまい、それを美登利が助けようとしたのだが、信如は差し出された友仙ちりめんの切れ端を受け取ろうとせず、偶然通りがかった長吉に救ってもらう。気が塞ぐ美登里は、ある日を境に生来の気性が和らぎ、大人しくて女らしい振る舞いをするようになった。霜の朝、大黒屋の門の中に水仙の造花が差し入れられる。その翌日は信如が僧侶の学校へと入学する日だった。

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